音粒がひとつひとつ静かにそっと空間に現れ、ひとすじの糸となりメロディが紡がれ空間をたゆたう音のベールが現れる。オルサーのピアノが輝く
2024年5月、連続で発生した太陽フレアが起こした大規模な磁気嵐は日本をはじめ低緯度の国々にもオーロラを出現させた。その記憶もまだ消えぬ6月、イタリアのピアニスト
ロベルト・オルサー 澤野工房6枚目のアルバム「Aurora」が発表されたのはジャズの神様の粋なはからいだろうか。
静かに波打っていた光の帯が、あたかも感情を高ぶらせ爆発するかのように天上を光で埋め尽くすAurora Break Upという現象がある。
オルサーの演奏もまたそれに似て、繊細な美旋律から始まり、不動のベースユーリ・ゴルベフとドラム マウロ・ベッジオのリズムの躍動に呼応し、呼吸が荒く脈は高まり血流が体を駆け巡り、抑えきれない感情のうねりに耐え切れず身を震わせ、空間に音が満ち溢れる。
オリジナルでタイトル曲「Aurora」、ソロアルバムにも収録された「Torre del Lago」、エンニオ・モリコーネ「サハラの夢」、ウォン・カーウェイ監督"花様年華"から「夢二のテーマ」等々、その彩りも鮮やかだ。"音のマエストロ"ステファノ・アメリオの録音は、オルサーの指から発せられた音が空間を満たし、ふたたび静寂にもどるその刹那まで見事に録らえて作品に磨きをかける。
漆黒の闇のような静寂、音粒がひとつひとつ静かにそっと空間に現れ、ひとすじの糸となりメロディが紡がれ空間をたゆたう音のベールが現れる。それは光を放つかのように輝き、刻々とその姿を変えていく。ロベルト・オルサーのピアノは輝く。オーロラの煌めきのように。
Text by 白澤茂稔
1.[CD]
1.After You Went Away
2.Saharan Dream
3.Aurora
4.A Minuet Mint
5.Torre del lago
6.Parisian Episode IX
7.Piano Concerto
8.Heimweh
9.Yumeji's Theme
10.Blue Eyes Blue
11.Corale
12.A Little Waltz
(澤野工房)AS505 CD