繊細で瑞々しいピアノが紡ぎ出す13の奇跡。物語に引き込まれていく時のような、喜びにあふれた美しい音世界。
はじまりの音を聴いた瞬間に、「これはきっと素敵な音楽!」と感じる作品に出会うことがある。それは音楽を愛する人たちの日常に起こる小さな奇跡であり、その後のテーマからどんなトピックが抽出されてどのように描写されていくかを追いかけるのは、ジャズを聴く楽しさでもある。それを教えてくれたのがオランダのピアニスト、アーノルド・クロス。彼が2年の時を経て描いたのは、日常を彩る13の奇跡だ――。
今回もジョス・マハテル(b)とエリック・イネケ(ds)がサポートに起用され、彼らの代名詞とも言えるエヴァンス・ナンバーや美しいスタンダードが紡がれていく。オープニングに「My Funny Valentine」(M1)が選ばれたのは、収録の初日が2月14日だったからだという。軽妙な演奏はオリジナリティに富み、「毎日が特別な日だから」という歌詞の意味が浮き上がってくる。エヴァンスで有名な「Someday My Prince Will Come」(M7)ではクロス・ファンが夢に描いてきた世界を体感。続く甘美なバラード(M8)では、音の糸が手繰り寄せられては結われていく美しさを堪能できる。表題でもある最終曲(M13)は、彼の生まれた1944年に作曲された作品だ。どこまでも繊細なピアノは瑞々しく、弾力のあるベースと柔らかなドラムが演奏に立体感を与える。物語に引き込まれていく時のような、彼らと同じ空間にいる気持ちにさせてくれる。
ガラス細工のような繊細さと形容されるクロス氏が今回教えてくれたことは、音楽はどんな色にでも変化する――、つまり日常の小さな出来事も、奇跡になりえるということだ。(Text by 小島万奈氏)
Arnold Klos(p)
Jos Machtel(b)
Eric Ineke(ds)
1.My Funny Valentine
2.One for Helen
3.Blue Bossa
4.I Fall in Love Too Easily
5.Star Eyes
6.I Hear a Rhapsody
7.Someday My Prince Will Come
8.When I Fall in Love
9.The End of a Love Affair
10.Nancy
11.Re: Person I Knew
12.Only Trust Your Heart
13.It Could Happen to You
(澤野工房) 2014年9月5日発売